増村保造監督
若尾文子主演
「妻は告白する」
狂恋の人妻
滝川文子
情愛の純粋性故、もはや殺人の善悪は曖昧となる。
「女には女の気持ちがわかる」
結局、婚約者の言っていたことが一番正しかったのだ。
婚約者の証言は、文子と婚約者を庇うわけではなく、女としての自分のプライドを貫くための偽証だった。
婚約者にお礼を言われても
「検討ちがいよ。わたしにお礼を言うのは」
と悲哀を込めた表情で言うのだった。
ここで、焦点が挿げ替えられたトリックの作用で、偽証という罪の善悪が朧げになっている。
二人の潔白、その純粋度が高いからこそ成り立つ物語。
判決がでるまでのあいだ二人は蜜月の時を過ごすことにする。
「わたしを愛してくれる?思いっきり、いっぱい。」
不協和音のメロディが流れるなか、美しく愛し合う二人の日々が映し出される。
「わたしの手を取って歩いてくださる?」
罪の意識に苛まれる男と、まったく悪ビルことなく保険金に手を付ける女のあいだに溝が深まっていく。
その後、人を殺してまで愛する女の純粋性と、殺人に対する男の潔癖性の相反する感覚が、二人の愛を急速に色褪せさせる。
そして、もう一つの真実が明らかになる。
「ザイルをきらなきゃ貴方も死んじゃう。貴方だけはたすけたかったのよ!」
「助けてくれなければよかった。」
「貴方がすきなだけ。
貴方のために、何もかも犠牲にしただけ。
それだけよ。」
まったく持ってウソのない言葉だ。
「ひとを殺す人間にひとを愛することができるんだろうか?」
まったく何にもわかっちゃいないウソの言葉だ。
そして遂には彼自身も殺人の罪を犯すのだ。
文子に別れを告げることにより彼女は自殺してしまうのだから。
婚約者は言う。
「貴方は誰も愛さなかった。」
「女の心には愛があるだけ。
愛のためにはどんな犯罪だってやるわ。」
それを実行した文子の犯罪性はもはや問われることなく、罪を犯したはずの文子は、とうとう愛の女神に祭り上げられ、物語は終わるのだった。